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評価:
福岡 伸一
講談社
¥ 777
(2007-05-18)
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たゆたう流れの中でわたしたちは存在している。それを解明する一つの手がかりがDNAであり,自己複製システムのメカニズムである。わたしたちの身体がどのようにしてエントロピーの増大を押さえ存在しているのか,細胞レベルではいったいどんなことが日々起こっているのか。ここには身体的宇宙論とでも言うべきロマンに満ちあふれている。
今,ここにあるわたしたちの身体そのものが,果たしてどれほどの終焉と誕生が繰り返されているのだろうか。時間が不可逆的であることは想定されているが,生物の不可逆性については紛れもない真実である。その不可逆性の中でいかに自己複製の持続性を保ちうるか。それが生物に課せられた根源的課題であり根源的実存でもある。
例えば身体的宇宙を太陽系になぞらえれば,人間という要素の小ささは際だってくる。同様に分子を太陽系になぞらえれば A, G, C, Tという塩基の大きさが際だってくる。それぞれの要素が宇宙ほどの計り知れなさを持っているが,その最終目標が自己複製に収斂されてくるおもしろさがあるのである。
しかし,この宇宙観にブラックホールは存在しうるのであろうか。あるとすれば細胞の不完全複製の増殖か。いや,現実的なブラックホールはわれわれ自信が創出したものである。自己複製を不完全にする社会システム。少子高齢化社会は分子レベルへの強固な壁として非生物的な実存がつくりだしたものだろう。
「動的平衡」この生物のメカニズムを超越する社会システムを構築しつつある人類っていったい何なんだろう?